1. 導入:プロジェクトを止めることは失敗ではない
プロジェクトを進行中に「これ以上続けるべきではないのでは?」と感じたことはありませんか?
多くのプロジェクトマネージャー(PM)は、中止の判断を「失敗」と捉えがちです。しかし、むしろ無理に続けることで、より大きな損失や悪影響を招くことも少なくありません。
「プロジェクトを止める」という判断は、未来を守るための責任ある選択です。
この記事では、止めるべきプロジェクトの条件やその判断基準、中止を通じて得られる学びについて深掘りしていきます。
2. 止めるべきプロジェクトの条件
プロジェクトを中止すべきかどうかを判断する際には、以下の3つの条件のいずれかに該当するかどうかを検討します。これらは、プロジェクトの価値や持続可能性を見極める重要な視点です。
1. プロジェクト目的が不明で、明確なプロジェクトオーナーが不在
- 背景:
プロジェクトが進行しているものの、その目的が曖昧だったり、「何のために行うのか」が明確でないことがあります。さらに、意思決定を行うべきプロジェクトオーナーが不在で、重要な判断が遅れがちな場合も少なくありません。 - 問題点:
このようなプロジェクトでは、ステークホルダー間での不和やコミュニケーションの障害が発生しやすいです。また、仮に成果物が完成したとしても、そのシステムや製品が使われないリスクが非常に高くなります。 - 提案:
必ずしも中止ではなく、一度立ち止まって以下のようなアクションを取ることが重要です。- プロジェクト目的の再定義: 目的を明文化し、関係者全員と共有する。
- ステークホルダー間の合意形成: お互いの期待値を揃えるために話し合いを重ねる。
- プロジェクトオーナーの明確化: 責任者を定め、意思決定のプロセスをスムーズにする。
2. 外部環境の変化でプロジェクトの価値が低下
- 背景:
プロジェクトが始まったときは価値があったとしても、進行中に市場の動向や顧客ニーズが変化し、計画している成果物が求められなくなる場合があります。しかし、多くの人が「ここまでやったのに無駄にしたくない」という心理、つまりサンクコスト効果に囚われてしまいがちです。 - 問題点:
サンクコストを理由にプロジェクトを継続してしまうと、さらにリソースを浪費するだけでなく、他の有望なプロジェクトに割くべき資源を失ってしまいます。 - 提案:
- 未来のリターンに基づいて判断する: 過去に費やしたコストではなく、現在と未来の価値を見据えた決断をする。
- 外部環境を定期的に評価: 市場や顧客ニーズ、競争環境の変化をプロジェクト計画に反映する仕組みを持つ。
- データに基づいた中止の決断: 透明性を持って関係者に中止の理由を説明する。
3. メンバーの心身を壊すようなプロジェクト
- 背景:
デスマーチのような過剰な負荷がかかるプロジェクトでは、個人の犠牲を容認する風潮が見られることがあります。特に「社運をかけたプロジェクト」のようなケースでは、過剰なプレッシャーがチーム全体にかかります。 - PMの役割:
PMの役割はメンバーに無理をさせることではありません。
無理をしなくてもプロジェクトの目的を達成できる環境を作ることこそ、PMの責任です。
社運をかけたプロジェクトであればこそ、適切なマネジメントを行い、過剰な負担がかからないようにすべきです。無理が前提のプロジェクトが発生している場合、それは計画や組織の責任であり、個人が犠牲を払う義理はありません。 - 私の経験:
無理をして達成したプロジェクトがありましたが、その後、関わったメンバーはほとんど辞め、私自身も退職することになりました。短期的な成功が、長期的には組織に大きな損失をもたらした事例です。 - 提案:
- メンバーの健康を最優先: 心身の負担を軽減し、無理のない範囲でリソースを配分する。
- スコープの調整: 現実的な計画を立て直し、過剰な負担を防ぐ。
- 無理を強いる文化を見直す: 組織全体で、無理が常態化しない環境を作る。
3. プロジェクトを止める勇気が未来をつくる
プロジェクトを止めることは、「失敗」ではありません。むしろ、長期的な視点でリソースを守り、次の成功に繋げる責任ある判断です。
PMの本当の役割は、メンバーを守りつつ、無理なく目的を達成できる環境を作ること。
プロジェクト中止の判断ができることは、PMとしての成熟と責任感を示す行動です。
勇気を持って適切な決断を行い、次の成功を築いていきましょう。