そもそも納期に追われている状態は危険運転状態

私はよくプロジェクト運営を車の運転のメタファーで考えます。納期に追われている状態というのは、要するに遅刻しそうで急いで車を運転している状態です。ここまでを聞いただけでも危なっかしいですが、納期最優先で走るということは、視野を狭め、安全性を無視し、何より「今やっていることの意味」を問えなくなるということです。たとえば、次のようなことも含まれます。

  • 車間距離(バッファ)を取らない
  • 休憩を取らない
  • 法定速度を守らない
  • 多少の事故は気にしない
  • 最適な道を走っているのかを見直さない(見直せない)
  • そもそもそうまでして行くべき場所なのかを見直さない(見直せない)

これを実際の道路上でやったら一発アウトなことを、プロジェクトマネジメントでは堂々とやってしまうことが散見されてしまう。納期に間に合わせることだけにフォーカスしてしまうと、あまりにも多くのものを失ってしまうのです。

そもそもNoと言えているか?事前準備をしているか?

プロジェクトマネージャは「No」を言えなければいけません。「やるしかないからやる」はマネジメントではありません。それは反射的な対応であって、状況に対して戦略的に動くリーダーシップとは異なるのです。もちろん、やる意味が高く、納得できるものであれば、リスクをとってやる場合もあります。しかし、そのような状況は万馬券並みの発生確率と思っておいた方が良いです。ほぼ、ない。

そもそもプロジェクトの「意味」を問うことよりも、クライアントの要望を満たす、もっというと自己保身を優先するから「No」が言えないのです。しかし、PMの仕事はプロジェクトに「意味」を注入することです。クライアントの言う通りにチームを動かすことではありません。そこを取り違えるとどんどん「No」が言えない状況になり、チームは追い込まれていってしまいます。

また、ドライブでは、初めて行く道であれば(大抵のプロジェクトは初めての道に等しいでしょう)、事前に大まかな道順を調べたり、所要時間を調べたりするでしょう。これに等しいことをプロジェクトに対して行っているでしょうか。準備、計画もしないで走り出して、気づいたら納期に追われて暴走するというのは、これはマネジメントしているとは言えません。

目の前のことに集中してしまうのが人間

人間は放っておくと目の前の問題の処理に集中してしまいます。長期目標よりも短期目標を優先してしまいます。そういうものです。ですが、PMは、PMだけはそれではいけないのです。PMもそうなってしまったらプロジェクトは、その意味も忘れて納期を満たすことだけに集中してしまうでしょう。品質は落ち、メンバーは疲弊し、意味のないタスクばかりが積み上がり、終わりが見えず、そして、顧客の真の要望、そのプロジェクトに要求された成果を出すことができずに終わる。

その意味では、PMは人間の性(さが)に抗しなければいけない。PMが手を動かすことに私が懐疑的な理由がここにあります。手を動かせば、どうしても目の前の問題にフォーカスせざるを得なくなる。目の前の問題が瑣末だと言っているのではありません。これはこれで大事です。なのですが、誰か一人は遠くを見ている人間も必要という話です。そして、それがPMに求められる役割なのです。

納期に向かって爆走しそうになっているプロジェクトを冷静に見て、必要であれば止める。目的地を変える。納期を調整する。こうしたことが必要であり、それが仕事です。「意味」を見据えていれば、こうした行動はとれます。勇気がなければできないと思われがちですが、そんなことはありません。経験上言えることは、勇気が挫かれる時というのは「意味」が見えなくなる時です。

納期が最優先というプロジェクトでも、その最優先の裏にある「意味」を見出し言語化しましょう。納期そのものが目的のプロジェクトなど存在しません。意味は必ずあります。