プロジェクトが崩れるとき、人は「突然こうなった」と言いがちです。

でも本当にそうでしょうか?

私は、崩壊の兆しはいつも前もって現れていたはずだと考えています。
それに気づけなかった、あるいは気づかないふりをしただけなのです。

PMに求められるのは、「進捗が順調かどうか」を確認するスキルではなく、
“見えないゆらぎ”に気づける感性なのです。

ゆらぎとは何か?

「タスクは終わってる。でも、なんかおかしい」
「成果物は出てるけど、会話のトーンが重たい」
「言葉にはならない違和感が、うっすらとある」

それが“ゆらぎ”です。

ゆらぎとは、定量的には捉えづらい微細なズレや異変。
でも、それに気づけるかどうかが、プロジェクトを守れるかどうかを分けます。

ヒヤリハットとハインリッヒの法則

ヒヤリとした、ハッとした――でも何も起きなかった。
こうした“ヒヤリハット”は、軽視されがちですが、本当は最も大事な兆候です。

ハインリッヒの法則
1件の重大事故の背後には、29件の軽微な事故があり、300件の異常(ヒヤリハット)がある。

これは製造業の法則ですが、プロジェクトマネジメントにもそのまま当てはまります。

PMが「ゆらぎ」に気づけるとは、まさにこの“300件の異常”を拾う力なのです。

ゆらぎに気づくPMになるには?

1. ルーティーンと掃除で「基準」をつくる

意外に思われるかもしれませんが、
掃除とルーティーンは“感性”を磨く最強の手段です。

日々の生活や仕事の流れが整っていればこそ、
「いつもと違う」が、浮き上がって見えるようになります。

乱れた環境では、乱れに気づけません。
整った環境だからこそ、乱れが“ゆらぎ”として知覚できるのです。

2. 直感を信じる

「なんか違う」と感じたら、それはほぼ正解です。
特に経験を重ねたPMほど、その違和感は信じるべきです。

ただし、直感は野生の感性ではありません。
過去の経験や知識、習慣、観察が無意識に働いた結果です。

つまり、日々観察している人間だけが、良質な直感を持つのです。

3. 小さな変化を書き留めておく

「今日は空気が重い」「ちょっと進捗が遅い」
そんな小さなことでも、記録しておくことで変化が見える化されます。

言語化しておくと、過去との比較ができ、
それがゆらぎを“分析可能な現象”に変えてくれます。

ゆらぎに気づくことは、意味を見出すこと

プロジェクトの進行において、
意味のない作業に人を動員することほど有害なことはありません。

PMの役目は、「この作業にはどんな意味があるのか?」という問いを手放さず、
意味を失っている部分があれば、それを正すことです。

意味の欠落は、ゆらぎとして現れます。
そのゆらぎを拾い上げ、意味を注ぎ直す。
PMとは、“意味の番人”であるべきなのです。

結論:ゆらぎに気づけるPMが、チームを救う

PMがゆらぎに気づけなければ、誰も気づきません。
みんな、自分のタスクに追われているからです。

床に落ちたゴミを拾えるのは、全体を見ている人だけ。
誰の役割でもないけれど、誰かが拾わないといけないもの
それに意味を見出し、実行することこそ、PMの仕事です。

プロジェクトが静かに軋みはじめたその瞬間に、
「何かおかしい」と気づける感性。
それは、掃除と観察、そして自分の感覚を信じる勇気によって育まれます。