管理(Management)に対する思い込み

管理。プロジェクトマネジメントに限らず、ピープルマネジメントや品質管理、進行管理、様々な管理が世の中にはあります。それら「管理」に共通する思い込みはなんでしょうか?

それは、ルールを整備し、統制を強化し、計画を立て、全てを支配下に置く、コントローラブルにするというようなイメージかと思います。よくある「管理」に対するイメージであり、固く、冷徹で、怠惰を許さないようなイメージがついてまわります。

しかし、少し経験を積んだマネージャが理解するのは「管理」の全く異なる姿なのです。

人や状況をコントロールできると思い込む傲慢さ

経験を積んだマネージャが理解する、理解せざるを得なくなること。それは、あらゆる管理は計画通りには進まないということです。

新人マネージャの貴方は鼻息荒く現場に臨みこう言うかもしれません。

「私が来たからにはこれまでのような緩い働き方はさせませんよ!」

OK。そして、貴方は意気揚々と細かなルールを立て付け、監視を強化し、緻密な計画を立て、ビシバシメンバーを動かすのです。そして、そして思い通りにはいかない現実を見るのです。

マネージャが「管理」に対して理解しなければいけないこと。それは、自分が扱おうとしている対象が複雑系であって、実験室のフラスコではないということなのです。

複雑系とは、何か一つの入力を微量でも変えたら、その影響が予測不可能な範囲に広がり影響を及ぼす系です。なぜ、このようなことが起こるかというと、人間を含めた生物や自然が入力に対して反応して自分の在り方を変えてしまう存在だからです。反応に次ぐ反応の繰り返しによって、最初の入力の変化がとんでもない出力の違いを生み出す世界に実際に私たちは生きているのです。

ここから導かれることはシンプルです。マネージャには人や状況を完全にコントロールすることなどできません。そう思い込むのは自由ですが、現実とは乖離した結果をもたらすでしょう。このある種の傲慢さを捨てることがマネージャのスタートです(そして、多くのマネージャはキャリアの最初でそのことを傷つきながら学ぶのです)。

半径3mを改善する

マネージャが人間である以上、管理対象がなんであれ全てをコントロールすることはできません。では、打つ手なしなのでしょうか?諦めて、放置して、座して状況の変化を眺めるしかないのでしょうか?

ここでもう一つの気づきがマネージャに与えられます。それは、マネージャは状況もメンバーも、何もコントロールはできないが、あらゆる存在に作用することはできるということです。複雑系で忘れてはならないのは、それがアンコンローラブルであるということだけではありません。自分自身も系全体になんらかの作用を与えていることも同じぐらい重要なのです。

いきおい、問いは変化します。つまり、マネージャとして「どうコントロールするか?」を手放し「どう作用するか?」が問いとして残る。

コントロールしない作用に意味はあるのか?という向きもあるかと思います。しかし、これはちょっと考えてみれば普通のことなのです。例えば、私たちのほとんどは国をコントロールしていませんが作用はしています。それで、私たちの人生に意味はないのでしょうか?そんなことはないはずです。これと本質的には全く同じことです。作用に意味はあります。

そして、最もわかりやすい作用の在り方。それが貴方の半径3mを改善することです。その最初の一歩は?そう、それが床に落ちているゴミを拾うことです。

マグニチュードバイアスを超えて

マグニチュードバイアスというバイアスがあります。大きな出力には大きな入力が、小さな出力には小さな入力があったと思い込むバイアスです。しかし、複雑系ではこれは真ではありません。入力の大小は出力の大小とは無関係です。

海上での小さな蝶の羽ばたきがアメリカで竜巻を起こしうるのです(バタフライエフェクト)。

「管理」対象の大きさや複雑さに比して、床に落ちているゴミを拾って半径3mの環境を極々わずかに改善することになんの意味があるのか?と思うかもしれませんが、それがマグニチュードバイアスです。

複雑系においては、半径3mのゴミ拾いは小さなインパクトではありません。ほんの少し環境が改善されるだけで、そこにいるメンバーの動きは必ず影響を受けます(コントロールはできません)。半径3mのメンバーの動きが変われば、隣接する領域のあらゆるものもまた必ず影響を受けます。いずれ、その影響は全体に伝播します。

大きなことをする必要はないのです。そもそも大きなことをしてもそれが大きなインパクトをもたらすとは限らないのですから。力んでも疲れるだけです。

また、ゴミ拾いという一見小さな作用を重視することは、マグニチュードバイアスへの効果的な抵抗になります。思い込みから解放されるためには、具体的アクションが有効です。思索よりも。

だから、目の前のゴミを拾いましょう。