プロジェクトが忙しくなると、PMのカレンダーはどんどん会議とタスクで埋まっていきます。
気づけば、自分自身が何も考えずに「ただタスクを捌いている」状態になっている。
一見、全力で走っているように見えるこの状態こそが、PMを判断ミスに導く落とし穴です。
「考えていない状態」と「考えている状態」は、似て非なるもの。
忙しさにかまけて、“思いつき”を“判断”と勘違いしてしまうと、
プロジェクトは静かに、しかし確実に破滅へと向かってしまいます。
フル稼働のPMは、誤判断の温床になる
「Slack」という概念があります。
リソースを100%埋めてしまうと、変化に対応できなくなる——トム・デマルコはこの構造を、数字パズルを例に説明しました。
1〜9の数字がすべて埋まった状態では、並び替えることができない。
動かすためには、どれかひとつのピースを取り除く必要がある。
つまり、変化のためには“余白”が必要。
PMの頭の中も同じです。
会議・Slack・メール・レビュー・フォローアップにすべて埋め尽くされてしまえば、「深く考える時間」は消え去ります。
結果として、最も重要な「判断の質」が落ちるのです。
PMの価値は「判断の質」に宿る
PMの役割は、単にタスクをこなすことではありません。
PMは“現場を導く存在”であり、価値を生む問いを立て、構造を設計し、意味を伝える存在です。
- このプロジェクトは、どこへ向かうべきか?
- 今、何をやめるべきか?
- 何にリスクが潜んでいるか?
これらは、慌ただしい日々のなかでは「思いつき」では答えが出ません。
思考の静寂の中でこそ、見えてくる構造や判断があるのです。
言語化しない思考は、思考ではない
「なんとなく分かっている」は、考えている状態ではありません。
人間は、言語化することで初めて“考える”ことができます。
- 「なんとなく問題だと思っている」ではなく、問題の構造を言葉にする
- 「なんとなく違和感がある」ではなく、具体的な問いに変える
この“言語化”のプロセスは、余白がなければ決して行えません。
つまり、考える時間を確保できないPMは、
問題を定義できず、構造を理解できず、判断を誤るPMになるということです。
余白を守ることは、プロジェクトを守ること
デスマーチを招くプロジェクトには、必ずといっていいほど「思考の不在」があります。
忙しさに追われ、誰も立ち止まって考えることができない。
だからこそ、PMが余白を死守する必要があるのです。
- 考えるための30分を、予定に入れる
- ノーMTG・ノーSlackタイムを確保する
- あえて「何もしない時間」を意識してつくる
誰のためにもならない“沈黙の時間”こそ、プロジェクトを支える土台です。
おわりに – 判断の質は、余白が決める
PMの仕事とは、構造を見極め、優先順位を定め、チームを導くこと。
その根幹にあるのが「思考の質」であり、「判断の質」です。
そしてその質は、思いつきではなく、思考によってのみ高められます。
忙しいPMであることと、有能なPMであることは、まったく別の話です。
まずは、自分自身の「考える時間」を守ること。
判断の質は、余白が決める。
それを忘れないPMでいたいものです。